私はいったん疑いを持ったひとの本はなかなか読みません。
私の師匠らしいというか、どうも私はあの方の不肖の弟子らしいのですが。
橋本治さんです。
橋本さんが高橋源一郎さんんを評価していることはずっと知っていました。
その元の文章も、それを取り上げて、「今はこういう時代だ」書いた、小林信彦さんの文章も両方覚えていて、そのことが私が小林信彦さんの不肖の弟子だということを意味しているのでしょう。
当時男が少女漫画を読むなどということは基本なく、とても恥ずかしいことでした。
もとの文章は「吉本隆明さんみたいな方が老眼鏡をかけて少女漫画の勉強をなさっていると思うとホントにいとおしいのだが、高橋源一郎みたいなヤツが書店で少女漫画を買っていると思うとイライラする」という文章なのです。
ずっと後になって「書評ならいいかな」と思って高橋さんの書評本を読んだらすばらしくて驚きましたが。
今この感覚はわからないと思うのですが。
そういうのがありました。
小林さんの指摘は
「これって戦後を代表する思想の吉本隆明をアイドルと同じ扱いにしている。今は誰もがアイドルにされる時代なんだ」という指摘です。
80年代ですね。
村上龍さんもやはり80年代について考えて「ラブ&ポップ」を書いています。
龍さんの考えてでいうと「ポップなのが80年代」だということになります。
私だけではなく、当時全員が感じたことだと思うのですが、70年代までは「左翼革命」の可能性がありました。
ならなかったのでしょうが。
あったんです。
80年に「左翼革命の可能性がゼロになった」と明確に感じたのを覚えています。
そこで誰かがつぶやくのです。
「お金って大事だよね」と。
お金は大事なんですよ。
だから私は「そうだよね」っていうでしょ。
いうけど、「お金だけが大事なわけじゃないかな」とも私は思うんですよ。
これは「時代の空気との対話」のようなもので、実際にこういう会話を私がいたわけではないですよ。
当然私は考えるのです。
「お金以外で大事なものは何かな。愛とかかな」。
「愛」は大事ですが、当時私は生意気盛りの若者です。
「愛」とか真顔で言いたくないでしょ、そういう年頃です。
「オレ愛とかいってる」とか思って「愛は大事だけれども、それを口にだしたくないな」とか謎のダイアローグが続くのです。
でも「お金以外で大事ななにか」って真剣に考えた結果それは「愛」でしかないかなと思う自分が自分で不愉快極まりないのです。
龍さんが「ラブ&ポップ」とか書くのって「そういう意味もあるんですか」とか思ってたなあ。
田原総一郎さんが「このひとにいきますよね」っていうのがあって、それが異常な大事です。
たとえば和民の社長の渡辺さんに田原さんがいくでしょ。
あれが死ぬほど大事です。
和民もブラック企業で有名ですし、そういうことに関しては私はわからないのですが、ただブラック企業といわれているところのトップで「私はこういう考えがあって企業を経営しています」というひとが渡辺さん以外にはいないんですよ。
ブラック企業はもちろん社会問題ですし、軽々に私ごときに口を出せる問題ではありません。
しかしブラック企業の社長に「発言の権利を与えない」のはおかしいのです。
それは大げさではなく、日本の民主主義の根幹にかかわる問題です。
この発言のオリジナルが誰だったのは忘れてしまいました。
ただ重要な発言です。
「私はあなたの考えに100%同意しません。しかしあなたの発言する権利は100%保証します」
という発言です。
「民主主義」を考える上でこの発言は異様なまでに重要なのです。
世間で「悪い」と言われていて、それがそうとうあたっていると思える場合であったとしても、そのひとの発言は謙虚に聴くのです。
そういう態度のようなものが「民主主義」を成立さえる上で異様に重要な態度です。
「お前は黙ってろ」と私でも言いたくはなります。
しかし民主主義を維持するうえで「黙ってろ」はNGです。
「発言させてつるし上げる」とかいうことでもなくて、「聞く」態度が異様に民主主義にとって重要なのです。
その時、その時に日本だけじゃないと思うのですが、日本中から嫌われているよねみたいなひとがいますよね。
そういうひとで、なおかつあなたがそのひとを憎らしく思っていても、謙虚に話を聞くんですよ。
その態度がないと民主主義は崩壊します。
ひところの堀江貴文さんがやっぱり日本中から嫌われるどころか憎まれていて、そのこともよく私にはわかりませんが。
というのはマスコミにバイアスがかかっていると感じていたからなのですが。
堀江さんの話を謙虚に聴く態度が日本中になくて、その時に田原さんがきいてくれるから、私は本当に助かるのです。
それが橋下徹さんでも同様です。
正直いって橋下さんの考えにそこまで私は共感しません。
ただ謙虚に橋下さんの話を聞くのは民主主義の筋です。
そういう「態度」が日本社会においてたびたび薄くなります。
それは民主主義の危機です。
あのひとも変なところへいくひとですが、プロインタビュアーの吉田豪さんにそういう「態度」があります。
80年代と民主主義でしょ、コレ。