ドラッカーはとてもおもしろい。
「ドラッカー入門」はドラッカーとの親交があり、ドラッカーの著作の日本語約をずっと手掛けていた上田惇夫さんの著作だ。ドラッカー入門には最適な一冊だ。
この本の「モダンの限界」という部分がとてもわかりやすくてなおかつ重要だ。
「世の中には真理がある」という考えで二つにわかれる。
1、ある
2、ない
「2、真理などないんだ」という考えもありえる。そういう考えも尊重する。しかし私もドラッカーも1だ。ここについての私の考えを正確に書くと「私は真理があると信じている」ということになるのだが。
次に「世の中には真理はあるんだ」ということを認める立場の中の違いだ。
a、その真理を人間はつかむことができる
b、人間にはその真理をつかむことはできない
これは「ドラッカー入門」からの引用だ。
b、イギリスの保守主義、アメリカの憲法制定者たち、ドラッカー
aの立場をとると「自分は真理を知っている」とまず思える。そして「この真理を教え、啓蒙する必要がある。あるいは啓蒙すればいい」という結論になる。
でも理性万能のリベラルはここで止まる。
これはドラッカー著「産業人の未来」からの引用だ。
新訳 産業人の未来―改革の原理としての保守主義 (ドラッカー選書)
- 作者: P.F.ドラッカー,Peter F. Drucker,上田惇生
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 1998/06
- メディア: 単行本
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「しかも彼らは、自由に反する正誤だけでなく、自由のための制度にまで反対する。理性主義のリベラルは、その時代における不正、迷妄、偏見に反対する。しかし、彼らは不正に対する反対にとどまらない。自由で公正な組織や制度を含め、あらゆる既成のものに対して敵意を持つ」。
こうなるのは「理性」に対する態度で決まっていたのだ。
何故か「人間も社会も理性的存在ではそもそもないから」なのだ。ただ人間にも社会にも合理性がある。それがリベラルがいう理性には必ずしもよらない合理性なのだ。
「ドラッカー入門」にはこうある。
(以下は私の稚拙な要約だ)
世の中はそもそも複雑なものだ。それを簡単な論理にするのは世のなかの複雑さに耐えられないものがすることだ。(つまりそもそも複雑なのだからそれを簡単にすることは原理上不可能なので複雑なものは複雑なまま考えるものだ)
そして「絶対主義はダメな選択だ」という指摘が続く。
「自分は真理をつかんだ」「自分が真理だ」という「絶対主義者」を信じてはいけないだ。
理由は彼らが「真理をつかんだ(あるいは真理である)存在」なら「真理をつかんでいないもの(真理ではないもの)は彼らに従うしかないからだ。
たとえば私は「戦争反対」どころか「争いごとがない世界」を望んでいる。そして「貧困のない世界」も「差別のない世界」も望んでいる。でもこれは「理想」だ。理想とはそういうものだ。現実にはベターを実現するように努力するのだ。
そして次の部分がとても大事だ。章のタイトルをそのまま引用する。
「万能薬は存在しない」。
橋本の言い方では「福沢諭吉は死ぬほどバカが嫌いだ」となる。
そして「バカ」とは「学問をする前の状態だ」という。
だから「学問をして(勉強して)バカじゃなくなってくれ」というのが「学問のすすめ」に一貫して流れているものなのだというのだ。
そしてここから重要なのだが。
「学問のすすめ」は「学問のすすめ」を読んで終わる本ではない。
何故か。福沢諭吉は「あなたに学問を(勉強を)すすめた」のだ。その内容があなたがわかったのなら「当然学問を(勉強を)する」という行為をあなたが取るはずだからだ。
こういう考え方はドラッカーにも共通している。
そんな本は当然ないが「決定版ドラッカー これでもうあなたはマネージメントに悩まない」という本はドラッカーの思想上存在しえない。
ドラッカーは「いつも考えなさい。すぐに組織は陳腐化するものです。この方法を取りさえすればいいという方法はそもそもないのです」という考えだからだ。当然ドラッカーはイノベーションの重要性を説く。当然だ。
上田惇夫著「ドラッカー入門」は本当にいい本です。おすすめします。
と私が書いたということは「私は後はあなたが勝手に勉強して考えるんだ」と言っているのだ。後はよろしく。