0.メディアで依存を取り上げ続けてはいるが
まず私が依存を持っていることを告白しておきます。わかりやすいアルコール依存とかそういうことでありません。自助グループに何年か関わりましたしちょっとは勉強しました。
私の勉強も古いので今は学説に変化もあるのでしょう。
橘怜氏の本は未読なので引用された部分だけからの判断です。
①アルコール中毒は遺伝する
②精神病は遺伝する
③犯罪は遺伝する
こういう指摘だけでも今の日本では重要です(残念ながら)。私が残念ながらと書くのは橘氏へのイヤミではありません。ワイドショーに代表されるテレビへの失望なのです。
私はある時期まで著名人が(薬物が多かったのですが)依存で摘発されると喜んでいました。人の不幸は蜜の味だったというよりもああいうことで依存への日本社会の理解が深まると思ったからです。
でもほとんど理解は深まっていません。敬称が不明なので「さんづけ」しますが清原さんの入れ墨だとかそういうスキャンダラスなことがあまりにフォーカスされてしまったのです。
TOKIOの山口さんに関しても正直「そういうことが重要なのかな」ということがやまりフォーカスされていましたし。
あのひとが依存者かどうか不明ですが、私は坂口杏里さんも依存者に見えていました。
1、依存と中毒
ここからは中央大学大学院鍋山祥子の論文とNLPトレーナー氏のブログ「こころのりくつ」を参考にしながら話を進めます。
http://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~nabeyama/works/nenpou.htm#1
反復強迫。困ったら不幸を繰り返してしまう: 【心の理屈(こころのりくつ)】イギリスの大学で教鞭を執りながら、博士号研究を続けるNLPトレーナーのつれづれなるブログ
最初はアルコール依存の患者に対する治療からでした。アメリカでも「酒にはまるのは本人の意思が弱いからだ」と信じられていたのですがそうではなくて病気なんだと風に考えが変わっていきました。
これは千葉県のホームページです。
抜粋します。
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アルコール中毒は、短時間に大量にアルコール飲料を摂取した結果(いわゆるイッキ飲みなど)に、意識を失い生命さえも危険な酩酊状態を呈する「急性アルコール中毒」と、長年に渡る大量の飲酒により生じてくるさまざまな問題を総称した「慢性アルコール中毒」に分けられます。
アルコール依存症は「アルコール摂取に関するコントロールが効かなくなった状態」と定義されます。もちろん飲みはじめて短い人がこのようになることはありませんから、依存症は「慢性アルコール中毒」の前段階と考えることが出来ます。
一度アルコール依存症になってしまうと、ひとたび酒を飲み出すと「ホドホドでやめる」ということができなくなります。酔いつぶれるまで飲んでしまい、目がさめるとまた酒を求める(これを「連続飲酒」と呼びます)ので、社会生活も家庭生活もうまくいかなくなります。この「飲酒のコントロールができなくなる」こと自体はなおりませんので、治療としては節酒ではなく「一滴も酒を飲まない」が断酒が必要です。
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わかりずらいと思います。ですから二つの方向で考えみましょう。身体的な問題と精神的な問題の二つです。
たとえば薬物を使うと脳が変化することがわかっています。同じことがアルコールでも起こるはずです。ですから明確に身体の問題、精神の問題と分けることは不可能ですし不適切なアプローチです。
ですからここでは身体が中心の問題と精神が中心の問題という風に考えてみます。
そう考えてみると中毒は身体が中心の問題、依存は精神が中心の問題だといえます。
2、どうとらえるのが適切なのか~身体と精神
たとえば酒浸りになっている亭主からひどい目にあわされている奥さんがいます。最初は亭主の酒浸りが当然問題にされたのです。でもこのことがとても重要だったのですが一見被害者にしか見えない奥さんにも実は問題があるし、それは病理だといえるのだという考えが出てきたのです。
でも奥さんにはどういう問題があるととらえればいいのでしょうか。彼女はあくまで被害者です。
このケースでは亭主の酒浸りは身体が中心の問題だとはいえます。でも酒浸りの亭主にひどい目にあわされている奥さんの問題は身体の問題だととらえることが難しいのです。
3、どうとらえるのが適切なのか~依存者は意思が弱いのか
また酒浸りになるのは長く本人の意思が弱いからだとされてきました。実際あなたがアルコール依存症の患者と接すると「なんて自分に都合のいい人たちだろう」と思うかもしれません。
アルコール依存がある女性が前に言っていたのですが「地獄みたいな年末年始だった」と言っていたことがあります。単に彼女は実家で年末年始を過ごしただけなのです。でも実家には普通に果実酒がたくさんあるのです。
私も若いころにあるサークルの先輩から怒られたことがあります。タバコをしょちゅう吸いに行っていたのです。「それくらいのガマンもできないなんて」という理由なのです。
4、トラウマ(心理的外傷)
普通は激怒してもほんの数秒で怒りは覚めます。でも私は物心ついたころから(たとえば怒りが)消えないのです。
小学校に入った後だったと思うのですがテレビで討論会をやっていました。その内容は私にはわかりませんでした。でも番組出演者が怒っていることになぜか反応してしまって心臓がどきどきしだしたのです。つまり体が勝手に怒りはじめたのです。
私はずっとそうなのでみんなそうなんだと信じていたはずです。
カミュの『反抗』(La Révolte)vs『怒り』(トラウマ) 西靖 内田樹 名越康文 - YouTube
MBSラジオ1179ポッドキャスト | 内田樹&名越康文の 辺境ラジオ
怒るべきことに怒るのは意外に難しいのです。
トラウマを普通は心理的外傷と日本語では言います。ココロのケガという意味なのでしょう。
もっと正確にいうとココロがケガをして治っていない状況だといえるはずです。
傷ついたとしてもココロのケガが治っていれば問題ないのです。
普通はワザワザ昔のイヤなことを思い出すことに意味はありません。でも治っていないココロのケガを治すためには過去を問題にする必要があるのです。
5.反復脅迫
反復強迫。困ったら不幸を繰り返してしまう: 【心の理屈(こころのりくつ)】イギリスの大学で教鞭を執りながら、博士号研究を続けるNLPトレーナーのつれづれなるブログ
フロイトは偉大ですが「フロイト読みのフロイト知らず」も実に多いのです(こころのりくつさんではありません)
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あるクライアントはフロイトを怒らせようとする傾向があった。後でわかったのは、このクライアントの父親が、彼に対してかなり好戦的で、彼は痛ましい記憶を持っていたという事でした。
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反復脅迫を「治っていないココロの傷(トラウマ)を軸に考えてみます。その傷は治っていないので(主語を何していいのかわかりませんが)傷を治したいのです。傷が治って傷がなくなった状態が好ましい状態ですから。
反復脅迫をココロの傷を治そうという自然治癒の表れだとここでは考えてみます。
私は一部マゾヒズムも反復脅迫だと考えています。
6、麻酔と治療
それはココロの問題ですがケガをしている状態です。その状態ですることが二つあります。
1、麻酔をかけて痛みを抑える
2、治療する
依存の問題に戻ります。私は依存者が何かに依存している状況を「麻酔を打っている状況」だと考えています。そう考えるともし依存に治療法があるのならそれはココロのケガ(トラウマ)を治療することでしかないはずです。
「酒に依存しているひとは酒が嫌いだ」とは昔から言われています。
もう引退されたのですがアルコール依存の治療をされていた医師が自分の晩酌に患者をつきあわせていたとうい話を聞いたことがあります。その医師は酒が好きなのです。
私も強くはないのですが酒が好きなのです。だからまずい酒は飲みたいなかったのです。個人史にもイフはないのですが私が酒好きじゃなかったらアルコール依存に苦しんでいたかもう死んでいたはずです。
依存の対象はほんとうにいろいろです。セックス依存もあります。セックス依存の実態については本人による漫画があります。
ハンマーで殴られて漫画を描こうと思った エッセイ漫画『セックス依存症になりました。』作者インタビュー - ねとらぼ
あなたが想像しているものとはそうとう違うはずです。
恋愛依存もあります。
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この本は今(2018年の夏から秋)の日本で読まれる本かもしれません。
- 作者: チャック・スペザーノ,大空夢湧子
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こういう本もそうですね。体育会の厳しい上下関係や厳しい指導には一定の効果があるだけではなく快楽もあるのです。
「傷つくならば、それは「愛」ではない」のだと思ったほうがいいです。
・これは余談ですが私はパワーハラスメンを受けたことがあります。相手は手は出していません。でも暴言を日常的に浴びていました。そいつのことを私は死んでも許しません。パワーハラズメントを受けるとそれほどまでに思うものです。そして高校時代の恩師からの毎週毎週怒鳴られていましたが’恩師にはそんな気持ちはまったくありません。あれはカツでした。同じように怒鳴られていたとしても意味がまったく違うのです。体罰に関して私は定見はありません。ただカタチがすべてはないはずです。でもカタチも重要なのです。ユーチューブで島田シンスケさんが女性弁護士に太っているというのはセクハラじゃないと言っていました。そうだと思います。でも誰もが言っていいものでもないのです。数人そういうひとを知っていますが彼らが冗談のつもりでいっていることは心底胸糞悪いことでした。本人たちは気づいていませんが日常的に周囲は本当にイヤな思いをしていました。結果そういうひとのまわりにひとがいなくなります。
7.依存の物語
ここでは酒を例に考えてみますが、これは薬物でもセックスでも恋愛でも人間関係でもタバコでも同じことです。
一般的には酒を覚えてそれにのめりこんでしまったという風にとらえますが私はこの味方は不十分だと考えています。
依存を麻酔だと考えてみるとみえてきます。
Aさんは子供のころにココロのケガをしてからずっとココロのキズが痛くてしょうがなかったがココロのキズは目に見えないので本人も本人の周囲のひともAさんがココロのキズの痛みに苦しみながら(実は)ずっと過ごしていることに気が付かなかった。
そしてある年齢の時に酒を飲んだら今までずっと感じていたココロのキズの痛みがとても薄らいで楽になった。(つまり麻酔をかけた)
でも酔いがさめるとまたココロのキズの痛みを感じた。
だからAさんはまた酒を飲みたい(つまり麻酔をかけたい)と思うようになった。
これは変な話ではないと思うのです。「気を紛らす」ということは誰にでもあるはずです。「ミンティアで気を紛らす」であるとか「コーヒーで気を紛らす」であるとか「オシャベリで気を紛らす」ようなことを誰でもしているはずです。
8.依存は遺伝するのか
①アルコール中毒は遺伝する
②精神病は遺伝する
③犯罪は遺伝する
橘氏の本の内容ですがこの三つはあります。「あの家ってなんか出るだよね」ということはあるのです。ウチもそういう家です。ある時期までの日本では何世代にもわたる使いが普通だったので、よくも悪くもそういうことは知られていたようです。
ただそれが先天性なのか後天性なのかという議論はあるはずです。でも先天性と後天性が重なって発病するというのは都合がよすぎるのですが妥当性があるのです。
ストレス脆弱性モデルがそうです。
ある人たちは先天性でストレスに弱いのでその人たちはほかの人たちには耐えれるストレスでも精神を病むのだという考えです。
本当に生まれつきストレスに弱く精神病を発病しないひとがいるのなら、ハードな環境や出来事を避けるようにすれば彼らは発病しません。こういう調査研究はひどく嫌われるとも思うのです。
9、いいよどまない社会
ただそうなると生まれつきストレスに弱いひとを排除してしまう可能性もありますし職業選択の自由を奪うことになりかねないのです。
だから私はいいよどんでしまうのです。
でも言いよどむことは悪いことばかりではありません。
介護畑の友人とあと何分でトイレに行くかわかる機械が開発されたという話をしていたことがあります。(本当にあるのです)
その機械を自分につけるのかという話をしていました。
日本で下の世話という良い場合のほとんど下の世話をするほうの話なのです。下の世話をされると想像してみてください。本当にイヤなことです。そういう前提があって二人で話していたのです。
どこかお互い言いよどんでいました。
性犯罪の前科があるひとにGPSをつけさせる国や地域があります。
こういうことはそもそもスッキリしないことです。こういう判断は言いよどみながらするものです。
文字通り「よどみ」がない社会は本当に危なかったしいと私は見ています。
10、いいフィクションの重要性 ラウンドなひと
小説や映画はハッピーエンドであってほしいというひとがいます。気持ちはわかります。
通俗小説と純文学は一つは人物像が違うのです。
多面的なキャラクターをラウンドなキャラクター、一面的なキャラクターをフラットなキャラクターといいます。
通俗小説はフラットなキャラクターたちで構成します。たとえば善人とか悪人とかです。こうすると善人がいい思いをして悪人はイヤな思いをしてというようなハッピーエンドが可能です。
だけれども純文学では登場人物が基本ラウンドなので「その善人にもいろんな面(たとえばひどく冷淡な面)があって」であるとか「その悪人も実はとてもヒドイ目にあって今みたいになっただけで昔は本当にいい人で」とかいう風に描くのです。
そうするとハッピーエンドが難しくなります。
ファンが多いのですがスティーブン・キングのシャイニングはアルコール依存や虐待の物語です。キューブリック監督の映画もそうです。
キングがあの続編を書いていて映画化もされます。「ドクタースリープ」です。
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いいフィクションを読んだり観たりした方がわかることもあるのです。
そしてそのひとが著名人であろうとも犯罪者であろうとも依存者であろうともそのひとは当然ラウンド(多面的)なひとであり簡単に善人だとも悪人だともいえないのはとてもあたり前のことです。