若いころに私が勉強していた店のマスターは「仕事を一回しか教えないひと」でした。
一回教えてダメなら、「あいつダメだよね」で終わりです。
私にもスペシャリスト資質があるからわかるのですが、
スペシャリストはムダが大嫌いです。
私自身も「この疲れはムダだ」と思うことがあります。
「頼むから私を疲れされないでください」と普通に考えるようになっていました。
ある職場に、突然私が飛び込んだことがあります。
ある現場なのですが、現場を仕切っているのがスペシャリストでした。
何故かすぐにわかりました。
そのスペシャリストが何故か私に仕事の指示を出しました。
そのとたんに私は、その現場の中間管理職です。
私は、ダメでした。
理由は同じことを3回、そのひとに言わせたからです。
スペシャリストにとっては指示は一回で十分なのです。
3回同じことをいうなど、問題外です。
当然怒鳴られました。
一見、そのひとが意地悪で、私がかわいそうなような状況なのですが、スペシャリストが
「3回同じことを言う」
など、
「ムダな疲れ」で「問題外」以外の何物でもありません。
そしてほかのひとに指示を出しました。
私は助かったと思いました。
これは本当に難しい問題です。
私にもスペシャリスト体質があるから、その場で「助かった」で済んだのですが、
「なぜ3回指示を仰いだだけで、このひとは怒るんだろう」
と思うひともいるだろうからです。
ドラッカーが、これから必要な人材を明確に定義しています。
それは
「スペシャリストであって、同時にジェネラリストであるひと」です。
昔のある種の職場でひどい首の切り方がありました。
それは
「お前、明日から来なくていい」
です。
ただ年を取ってきたスペシャリストには、この発言の気持ちがよくわかります。
私にもわかるんです。
本人が気がついていないのですが、
「困ったな。このひとさっぱり仕事を覚えてくれない」
と思い続けたスペシャリストが、ある場面でいうのです。
それまでそのスペシャリストは黙っています。
だから言われたほうが
「急に、そんなことヒドイよ」
と思います。
しかし言われるほうも言われるほうなのです。
事実仕事の覚えも遅いし、ヤルキもないとして思えないようなひとです。
ただ、そういうひとであったとしても雇った以上は責任があるので、それはやはりしてはいけないことなのでしょう。
ただ繰り返しになりますが、言われるほうにも十分な理由があるのです。
大げさですが、人間の能力の差などたかがしれているのです。
「君ヤルキないよね」
としか見ないひとだけが言われる言葉です。
事実私が見てきた限り、そういうひとで「ヤルキ」があるひとが一人もいませんでした。
そういわれるようなひとの「能力」が劣っているであるとか、そういうことではまったくないのです。
「学ぶ」であるとか「伸びる」であるとか、そういう気持ちが見えないから、イライラされているということは覚えていてください。
この件は非常に難しく、私ごときで結論を出せる問題ではありません。
ただ世の中にスペシャリストなる人種がいて、そういうひとは
「仕事はできる」
のだけれども、
「ムダな疲れだな」
と思うようなこと(そのひとが勝手に決めているのですが、合理性は充分あります)が
「死ぬほど嫌いだ」
ということを覚えておきましょう。